□「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ」
店の前に立つと唯一無二の歌声が聞こえてきた。けだるくしどけないけれど、無垢で聖性の宿った声。
扉を開けるなり「マスター、いい趣味してるじゃない」と声をかける。「ジャズバーでかけるにはギリギリの作品かも。こちらのお客さんが持参されたんですよ」とマスター。
ロングヘアーの女がほほえむ。手元にはロックグラスと灰皿。
「リッキー・リー・ジョーンズ、いいですね」。そう言いながら隣に座る。音楽の趣味のよい女は香水の趣味もよい。
「3年前、コットン・クラブで彼女を聴いたんですよ。それから夢中」
かかっていたのはリッキーがスタンダードをカバーした『ポップ・ポップ』(1991年録音)。ロベン・フォードのガットギター、チャーリー・ヘイデンのベース、ディノ・サルーシのバンドネオンをバックにリッキーが自在に歌う。これをジャズと言わずして何をジャズと言うのか。
全12曲が終わると女は「お願い、1曲目をもう1度だけ」と注文した。
《マイ・ワン・アンド・オンリー・ラブ》が流れ始める。たばこをくわえた女の横顔が美しかった。(桑原聡)
引用元 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090112-00000010-san-ent
