山崎元氏(左)と山口揚平氏
インタビュー:投資をする際にどんな情報に注目しているだろうか? 「なんとなくいい企業だから」といった運に任せるのではなく、企業が上方修正を発表したときにマーケットの反応を見る」という山崎氏。そこからリターンを手にするチャンスがあるというが……?
●プロフィール
山崎元(やまざき・はじめ)
経済評論家、楽天証券経済研究所客員研究員、1958年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事入社。住友信託銀行など12回の転職を経験。2005年から楽天証券経済研究所客員研究員。ファンドマネジャー、コンサルタントなどの経験を踏まえ資産運用分野が専門。
雑誌やWebサイトで多数連載を執筆し、テレビのコメンテーターとしても活躍。主な著書に『会社は2年で辞めていい』(幻冬舎)、『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『お金をふやす本当の常識』(日本経済新聞社)など。
山口揚平(やまぐち・ようへい)
早稲田大学政治経済学部卒。トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイト トーマツ コンサルティング、アビームM&Aコンサルティング シニア・ヴァイス・プレジデントを経て現職。
主な著書に『株M&A大化け相場に乗り遅れるな!』(日本実業出版社 2005年)、『http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4270000813/itmedia-22/ref=nosim/』(ランダムハウス講談社 2005年)、『世界を変える会社の作り方』(2008年、PDF)など。Business Media 誠では2007年4月~12月まで連載「時事日想」を執筆。
「この企業に株式投資しよう」と決めるとき、どのような情報をもとに判断するのだろうか? 「日経平均株価が上がってきているから」「企業業績が好調だから」などを挙げる人も多いと思うが、元ファンドマネージャーの山崎元氏は上方修正の情報によって、マーケットに参加している人の動きを観察している。
一方の山口揚平氏は「株式投資ではリターンだけを求めてはいけない」という。それでは山口氏はどのような考え・手法によって、株式投資をしているのだろうか? 投資対談(後編)では、今後してみたい仕事などを語ってもらった。
●注目する情報は企業の上方修正
――株式投資をする際、注目している情報はありますか?
山崎 最も注目しているのは業績予想の修正です。業績予想の修正はインパクトを持っている情報ですが、それがどの程度マーケットに影響を与えるのか? を観察します。例えば経常利益100億円と予想していた企業が、120億円に上方修正したとします。その企業がこれまでに上方修正をしたことが「ある」または「ない」かで情報の価値が大きく違ってきます。もちろんこれまで上方修正をしたことが「ない」企業の方が、マーケットに与える影響は大きい傾向があります。
ただ上方修正を発表したにも関わらず、その情報に反応しやすい株とそうでない株があります。また反応しにくい株でも、2回目の上方修正によって反応することもあるので、そういった点にも注目する必要があるでしょう。
企業の上方修正のインパクトに対し、マーケットに参加している人の反応が遅れる株を見つけることができれば、株価が上がる前に購入するチャンスがあるので、リターンを手にする可能性が高くなるでしょう。つまり上方修正に敏感になり、その情報によってマーケットに参加している人はどのような行動をするのか? それを予想したり分析することは、投資をする上で勉強になるでしょう。
――「今の相場はどうですか?」といった質問をよく受けるのではありませんか?
山崎 「日本の経済はどうですか?」「今後、世界経済の見通しは?」といった質問は多い。ただファンドマネージャーの立場からすれば、ファンドの運用がうまくいかないときなどの“言い訳”にマクロの話をすることがあるので、注意してください。ちなみに私の場合は、マクロを分析して運用することはほとんどありません。一般論としても、マクロをベースにしたマーケットタイミングの運用はうまくいかない、と評価されています。
やはりさきほどお話したとおり、上方修正の情報に対し、マーケットの参加者がどのように反応するかを見ることが重要。たくさん見ていくことで、いろいろなニュースを違った角度から分析することができるようになるでしょう。
●「投資によってリターンを求めるべきではない」の真意とは?
――山口さんは以前、「投資はするべきだけど、リターンを目的にしてはいけない」と言っていました。誤解を受けることはありませんか?
山口 投資はするべきだと思っていますが、「投資=リターンを求めるべきでない」という考えは変わっていません。こうしたことを言うと「なぜ投資をするべきなのか?」といった質問をよく受けます。もちろん私も投資をすることでリターンを手にしたいが、「今日Aという株を買って、明日に売る」といった短期売買には反対です。
大事なことは自分のお金を企業に、そして社会に投資する、という意識を優先させるべきだと思います。企業を「深く知る」という意味でも、投資をすることによっていろいろなことを学べるでしょう。自分なりに企業を深く知っていく作業の中で、最も大切なことは投資をする企業への“共感”です。自分の大切なお金を投資するわけですから、投資する企業への“心の震え”のようなものがなければ投資するべきではありません。
また忘れてはならない株式投資のデメリットとして、“感情のコスト”が負担になることが挙げられます。保有している株価が下がったときの「ストレス=感情のコスト」は見逃しがち。私の場合は感情のコストを支払うのが嫌なので、好きな銘柄を長期投資することしか考えていません。株価が上がることに注目するというよりも、株主となることで企業とコミュニケーションができたり、配当をもらえたりすることで満足しているので、感情のコストは小さいのです。
山崎 私は投資をすることとお金を切り離すことについては、疑問を感じます。投資とはお金を殖やすための技術であり手段。そして企業の資本に参加していることなので、どれだけ自分のお金を投資をすればいいのか? ということは合理的に考えればいいと思う。
しかし投資はどうせお金の問題なんだから、とドライに割り切ろうとしたとき、よくよく考えると割り切れない部分があることも確か。どのタイミングで株を買えばいいのか、と考えても結論はなかなかでません。分散して買った方がいいのか、それとも集中して買った方がいいのか、こうした問題は割り切ることが難しいのですが、基本となる考えを明確にしていれば答えはでます。
基本となる考えは人それぞれで、プロが特別難しいことをしているわけではありません。個人投資家でも集中投資が効率的にリターンを手にすることができると思えばやればいいでしょうが、率直に言って有利ではないでしょう。分散投資の方がリスクが小さいから自分に向いていると理解して、中長期で運用するのが基本です。何れにせよ「自分はこれだ!」という基本を明確にしてから、投資をした方がいいでしょう。
●今後の仕事は「金融商品を作ってみたい」「“善意の確信犯”になりたい」
――投資をすることによって、人間的な成長はあると思いますか?
山口 自分自身を振り返ってみると、まず株式投資をすることによって“人間のエゴ”を学びました。どれだけ自分のお金が殖やせるのだろうか? といったエゴが肥大化していきましたが、結局それは崩壊し、私は“寄付”を始めることにしたのです。お金を殖やしたいというエゴの塊のときには資産が減り、逆にエゴがなくなれば資産が殖え始めた、なんとも不思議な話ですが……。
このほか投資をすることで、視野が広がりましたね。自分が投資したお金がどのように社会に流れていくのか。投資したお金がどのように使われていくのか。そういった点に注目するだけでも、世界観が変わってくると思います。
山崎 株式投資を始めると「自分の思ったようにはならないことが世の中にはあるんだ」ということを学ぶのではないでしょうか? これは大事なことで、なんとなく勉強してとりあえず就職した、という人は勉強や情報の価値を過大に評価する傾向があります。投資をする上で価値のある情報とは何か? その情報は社会にとってどれだけ役立っているのか? ということを考えるきっかけになるでしょう。
もう1つ、「自分の判断を絶えず疑わなければならない」ということが身に付くはず。投資というゲームは、ほかの参加者を出し抜こうとするものなので、あまり品がよくない。だけどそのゲームを戦っていく中で、得られるものもあります。例えば自分が出し抜く側にいるつもりでも、実は出し抜かれる側になるかもしれない、というようなことも学ぶことができる。現実は簡単ではないし、だからこそ面白い。それは自分と他人を絶えず比較しなければならないため、とても難しい作業になります。マーケットに参加し続けることは、自分をトレーニングすることができるでしょう。
――これまで株式投資の世界で活躍されてきましたが、今後はどんな仕事をしてみたいですか?
山口 私は「金融商品を作ってみたい」という思いがあります。私の理想とする金融商品とはグリコのおまけのようなもの。お菓子とおまけがセットになっているように、リターンと人の思いがセットになっているような金融商品を作ってみたい。
実はいま、ある大学の先生と電気自動車の製作に携わっています。自動車を作るのにはお金がかかりますが、その大学の先生は「お金だけを集めるのは止めて欲しい」と言ってます。しかし「自動車を作りたい」という思いだけではお金は集まりません。多くの人が電気自動車というものに共感してもらうことで、どこまでお金を集めることができるのか? そこが肝だと考えています。単純なリターンだけではなく、社会に貢献しているという金融商品を作ってみたいのです。
山崎 私の仕事のモットーは、正しくて面白いことを伝えるということ。マーケットについて正しいことを伝えていかないと面白くないし、正しいことを探っていくのも面白い。それは本を書くことかもしれないし、人に伝えていくことかもしれない。「ポートフォリオはこうしたらいいよ」といったレポートにも興味があります。そうしたレポートは無料にして、自由に使ってもらうのがいいでしょう。運用サービスの無駄な価格を破壊し、いろいろなことを教えていければな、とも思っています。
いわば“善意の確信犯”。同業他社から「そんなことまで教えるのか! もったいないじゃないか!」といった批判があれば、マーケットの世界がレベルアップできるかもしれない。それだけで私は満足です。
引用元 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080811-00000043-zdn_mkt-bus_all
